テレセントリックレンズを使用した穴径寸法測定治具の改善
金属加工メーカーにおける、検査工程での穴径寸法測定治具の改善事例です。
課題: ワークの穴径を測定していますが、測定値がバラついて困っています。
加工後のワークの穴径を顕微鏡とXYステージを使って測定しています。顕微鏡(対物レンズ)の真下にワーク(穴中心)が来るように、ワーク下部のXYステージで正確に位置を決めなければなりません。顕微鏡を覗きながらの作業なので時間がかかり、作業が長時間に及ぶと目も疲れます。
また、ワークの位置決めがうまくいっても、穴の壁面(穴の内側の側壁)が見えてしまい、測定の邪魔になります。測定ポイントが捉えづらく、測定値のバラつきが発生してしまいます。正しい測定値が得られない場合、再度ワークの位置決めからやり直して再測定しています。
この治具の課題は、ワークの中心の位置決めの難しさと計測に適さない穴の見え方で、これらは作業者の習熟や努力では解決できない問題でした。
解決! テレセントリックレンズの採用で、作業性と測定精度が向上しました。
対物レンズを使用する顕微鏡に替えて、テレセントリックレンズとUSBカメラの組合せに変更しました。
テレセントリックレンズは、一般的な球面のレンズとは異なり、被写体からの光が光軸に対して平行に通過して像を結ぶレンズです(光軸と主光線が平行、画角が0°)。そのため、被写体とレンズとの距離が変わっても映像の大きさが変わったり、歪みが生じたりしないという特徴があります。
まず、ワークの位置決めは従来通りXYステージで行いますが、テレセントリックレンズを使用することで、以前のような慎重な位置決め作業が不要になりました。穴の中心をレンズの真下に正確に合わせなくとも像が歪まないため、作業性が大きく改善されました。
また、テレセントリックレンズなら、遠近による像の歪みも生じないため、穴の内側の壁面が見えてしまうことがなくなります。測定ポイントが捉えやすくなり、その結果、測定値のバラつきの問題も解消され、やり直しの再測定もほぼなくすことができました。
テレセントリックレンズ(MRC2-40)の特徴
高精度の位置決めや寸法測定に最適で、高解像度・低ディストーションを実現した画像認識用レンズです。
コンパクト&リーズナブルな設計により、装置やその他周辺部品の設計もコンパクトにできます。
- 光学倍率 : 2倍
- 有効F値 : 14.2
- TVディストーション : -0.001%
- 作動距離(ワーキングディスタンス=被写体と光学系の距離): 40.2mm
- マウント : Cマウント
- 質量 : 27g
応用のポイント:テレセントリックレンズの特長
テレセントリックレンズは、主光線がレンズ光軸に対して平行な特殊レンズです(下図参照)。ピント調節の際にワークが上下しても像の大きさ(倍率)に変化がなく、ワーク面全体を真正面から観察できるのが特長です。従って、高精度の位置決め・寸法測定・外観検査に最適です。